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【2025/07/08 15:19 】 |
ココ
ある朝目覚めたら、指がなかった

鋭利な切り口はそのままに
曲げ伸ばしする度にその断面は
小さく震えながら収縮を繰り返した
これは透明な指なのだろうか
感覚もないのに
信じることなどできるものだろうか
思考を拒否するように意識を飛ばして眠った


もう一度目覚めたら肘から先がなかった

私は断面を横から凝視した
それは少しずつ肩へと上ってきて
布団をはね除けたら案の定
膝から先も消えていた
これが心臓まで届いたら死ぬのだと思った
思考を弾き出されて眠った


そして目覚めたら私は死んでいた

私の体はここにない
感覚もない
ただ思考という名の存在だけが
ここに佇んでいた
その思考すら厳密には私のものではなかった
私は死んでいるのだから
ここにいるのは何なのだろう
思考など投げ捨ててしまいたかった


眠ることすらできなくなって私は見つけた

通い慣れた道に彼は立っていた
探すように泳がせた視線がここに引っ掛かった
彼は声を上げた

伸ばした手が
私を突き抜けた

人々は彼を揺さぶる
お前は誰に触れようとしたのだと
彼の声が名を紡ぐ
とうの昔に死んだ名を
私は既に死んだというのに

人々は彼を憐れんだ
その存在は既に霧散し消滅したと
それでも彼の視線は
ここに引っ掛かって外れなかった
引きずられていく彼を
私は――


私は
私だった何か


それは突然の痛みだった
透明な涙が溢れたかもしれない
透明な叫びが響いたかもしれない
どこまでも透明なそれは
彼には見えたかもしれない
私だった何か

私だった何かは
確かにここにあった
ここにずっと抱き締めていたのに


彼を追いかけた
いくつも扉をすり抜けて
会いに行く


目を真っ赤に腫らして
彼は泣いた
頬を真っ赤に染めて
彼は笑った
どうしてと問うた
僅かに返した言葉は透明
それでも彼は何度も何度も頷いた

気付いた

私は死んでなどいなかった
消えてなどいなかった
ここにいるものは
私だったものは
私は

ここにいる

それだけでよかったのだ
ただここにいる
それだけで
私は私だ
私は私であり私は私であり続ける


「おやすみ、今度は目覚められますように」


そして私は目覚めた

変わりのない朝
変わりのない景色
相変わらず今日も私は私だ

それが
それがどんなに素晴らしいことか
私は知らない
何故なら
私は私であり
私は私であり続けるからだ


透明な雫は滴り落ち
ここに私を浮かび上がらせた

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【2013/04/11 21:14 】 | 未選択 | 有り難いご意見(0)
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