放課後の教室、夕日の紅の中でいつものように交わされる重い重い憂鬱を帯びた雑談。
本日の起点は「何もなかった一日について」
「今日も何もなかったな」
机に座り虚空を見つめながら、佐野。
「確かに何もなかったな」
床に座り木目を見つめながら、篠崎。
「完璧すぎるほど何もな」
椅子に座り黒板を見つめながら須藤。
「平和以外になかったな」
窓枠に座り夕焼を見つめながら瀬田。
「また今日もな」
篠崎に背中を合わせ足元を見つめながら染谷。
影絵になったその情景はさながら完成された一枚の絵画のよう。
「明日もないのかな」と篠崎。
「残念ながらないんだろうな」
「そんなことあるわけがない」
「いや寧ろあってほしくない」
「でももしかしたらあるかも」
「あったらどうなる」と須藤。
「全く変化ないかもしれない」
「きっと全然違う明日が来る」
「どうにもできないだろうが」
「そして先がどんどん崩れる」
「崩れてほしくない」と瀬田。
「崩れさせる訳にはいかない」
「でも人は常に変化を求める」
「それは覆せないこの世の理」
「だから俺達は何も出来ない」
「それは有り得ない」と染谷。
「世界はシナリオ通りに動く」
「無数の世界が重複するだけ」
「俺達は世界を変更できない」
「なら俺達の未来は変らない」
「今起きる事は全て計画通り」
「話をしても話をしなくても」
「問い掛けても掛けなくても」
「答えても質問を無視しても」
「俺達が消えてなくなっても」
「なら今考えている事も計画」
「なら俺達という存在も計画」
「なら今見える物全てが計画」
「なら世界そのものさえ計画」
「じゃ計画って誰が決めた?」
「計画は運命だから神だろう」
「神も世界つまり計画の一部」
「計画を決めたのは、世界?」
「自分から自分を縛ってる?」
「世界ということは…人間?」
「縛られるのは好きじゃない」
「出来るものなら自由が良い」
「制約の無い世界で生きたい」
「でも自由って何なんだろう」
「見たことない物は知らない」
「俺達の求める自由って何?」
「全ての制約が無くなること」
「じゃあ制約って何なんだ?」
「行動や能力を制限するもの」
「でも制限は秩序も守ってる」
「秩序は無くなると良くない」
「それこそ世界が崩れていく」
「世界が崩れたら生きれない」
「じゃここじゃない世界なら」
「人は自由に生きられる…?」
「ここじゃない世界って何?」
「…天国とか地獄とか、かな」
「空想や二次元の世界もかな」
「そこに行くにはどうする?」
「俺達が…この世から消える」
「俺達が望んでいたのは、死」
「でもそれさえシナリオ通り」
「でも変わったことではある」
「変化までもがシナリオ通り」
「じゃあ変わってもいない?」
「じゃ変化ってどういう事?」
「結果が前と違ってくること」
「前と違ってたらどうなる?」
「未来がどんどんずれていく」
「○×心理テストの結果的な」
「一つの変化で未来が変わる」
「相当大きく変わってしまう」
「しかもやり直しは効かない」
「さらに巻き返しも出来ない」
「じゃあ変化は無い方が良い」
「「「「「……」」」」」
「今日何もなくて良かったな」
「確かに何もなくて良かった」
「平和としか言えないぐらい」
「明日もきっと無いだろうな」
「俺達の未来もきっと安泰だ」
そうして今日も一周し、将来に若干の希望を手にした憂鬱部。
しかし世に思春期がある限り、彼等の憂鬱はまだまだ続くのである。
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