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【2025/08/22 05:02 】 |
シンジルトイウコト

暴風に身を煽られ、天地を揺るがす衝撃の後。
気付けば私の五感は虚無によって支配されていた。

最後に見たもの――透けるように遠い青空。

そう。あの中に、私は踏み入ってみたかったのだ。

例えるなら手足を切断されたもの。
いつも地べたをはいずり回ってもがき苦しんだ。
そうやって生きてきた。

脚が無いことを忘れて、幾度も立ち上がろうとした。
あの遠い空に少しでも近付きたかったから。
そして立つ脚が欲しいと泣いた。
脚が無ければあの空には近付けなかったから。

腕が無いことを忘れて、幾度も手を伸ばそうとした。
あの遠い空に少しでも触れてみたかったから。
そして伸ばす腕が欲しいと泣いた。
腕が無ければあの空には触れられなかったから。

触れられないものが多すぎて。
私に触れてくれるのは風と泥、それだけだった。

ある日神様は私に言った。
辛いことの後には楽しいことがあるのです。
信じたものは必ず救われますよ、信じなさい。

私は神様を信じて信じて信じて信じた。
時には裏切られることすらあった。
でもそれすら私を諦めさせることは出来なかった。
神様だけが私の最後の希望だった。
神様さえいれば私は何も苦しくなどなかった。

少ししたある日神様は教えてくれた。

僕は青空の中に住んでいるのです。
毎日朝と夜に、沼地の端の崖から虹が架かります。
その虹を越えた向こう側に、僕はいるのですよ。

虹を渡りたいと、私は神様に言った。
だけど神様は、ただ悲しげに首を横に振った。

神様が振った首の意味を、私は暫く考えた。
それが不可能を表すのか。
或いは単なる制止を表すのか。
空はみるみる曇って、大雨と雷になった。

でも結局、私の出す答えは決まっていた。
神様は私に信じなさいと言った。
信じれば必ず救われるのだと言った。

つまりこうだ。
神様を信じれば虹の向こうに連れていってくれる。

大嵐の中を、私は這っていった。
すっかり日は落ちて、道は定かでない。
だが今までいた場所から逃げるように這った。

雷鳴は私を嘲笑う運命の声。
雷電は私を差す運命の眼差し。
突風は私を弄ぶ運命の指。
その全てが私の命を削っていくような錯覚。

だけど一人じゃない。
神様は言った。
辛いことの後には楽しいことがあると。
寒く刺々しい大雨の後には美しい虹が架かる、と。

死に物狂いで這っていった私の右手で、夜は明けた。
太陽の光に驚くように、あの暗雲が去っていく。
そして。

顔を上げた私の目の前に、虹が架かっていた。

普段私の届かない高いところにあるはずの虹。
それが、崖の淵から青空の高みへと伸びている。

形容のしようが無いほどにそれは、美しかった。

そして私は理解した。
自分は遂に、神様の国の入口に立ったのだと。

青空の彼方から、ほんの微かに鐘の音が聞こえる。
沼地の中では無かったものが、この虹の先にある。
きっと私の腕が、脚が、失った全てがそこにある。

嬉しくて、崖の端から勢いよく飛び出した。

なのにそんな私を、虹は受け止めてくれなかった。
腕も脚も無い私は、虹に触れることが出来なかった。

為す術も無く、奇妙な諦観にすっぽり包まれて。
後は重力に引かれて地面に落ちるのを待つだけ。

無意識に私は、視線を空へと走らせていた。

虹は沼地で見たのと同じように遠く、小さい。
澄み渡った青い空は、憂鬱げな色を帯びて見える。

ふと思った。

雷鳴は神様が必死に呼び止める声で。
雷電は神様の精一杯の警告で。
突風は神様が私を抱きしめようとした腕で。

そして大雨は。
神様が止まらない私を憐れんで流した、涙。

どうして気付けなかったんだろう。
神様はあんなにも沢山の啓示をくれたのに。
どうして信じられなかったんだろう。

だけど、思い付いた答えはとても簡単だった。

それはきっと。

私が神様のことを。

好きだった、から。

暴風に身を煽られ、天地を揺るがす衝撃の後。
気付けば私の五感は虚無によって支配されていた。

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【2011/06/14 20:54 】 | 未選択 | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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