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【2025/08/03 06:11 】 |
ツキモノ
少女は何の変哲もない少女だったのです。
ただ、真っ黒なその手袋を外そうとしなかっただけで。
どんな場所でもどんな時でも手袋。
そう、人前では絶対にはずさないのです。

ある人は皮膚が敏感なのだろうと言いました。
ある人は火傷の痕でもあるのだろうと言いました。
そうやって言われる度、少女は微笑むばかり。
恥じらうように。そして幸せそうに。

人々は揃って少女の両手を怪しみました。
悪魔が憑いているのではないかなんて言う人まで出てきました。
それでも、少女はただ微笑むばかり。
段々人々は少女を気味悪がるようになりました。
少女は人を避けるようになりました。
非常に近しい数人の人を除いて。
最後には高い塔の天辺に閉じ籠ってしまいました。
あの黒い手袋をしたままで。
この手には悪魔が宿っているからと、自ら言い残して。

はてさてこれは如何なることか。

暫くが過ぎた時のこと。
少女に近しかったとある青年がおりました。
青年は少女を気にかけていたのです。
彼は夜のうちに塔を登って、少女に会いに行きました。
もちろん少女はそこにおりました。
少女は石畳の床に座って一人泣いておりました。
しくしくしく。
声を殺して泣いておりました。
青年が歩み寄ってきても少女は驚きませんでした。
貴方なら来てくれる気がしたの。
ただそうとだけ言って。
青年は少女の隣に座りました。
彼女からも石畳からも、温もりといえるものは何一つ感じられませんでした。
少女は凍えきっていたのです。
道端に転がっている、忘れ去られたビー玉のように。
青年は氷のようなその肩を抱いてやりました。
少女はもっと泣きました。
きっとそれは雪解け水にも似て。
長い長い間かけて、少女は心を溶かしきり。
そして少女はゆっくりと、手袋をはずしました。
青年は思わず一度目を背けました。
何って、少女の手があまりにぼろぼろだったからです。
幾つもの切り傷が。
少女が刻んだ切り傷が。
そのせいで少女の手は、一回り大きくふくれておりました。
少女は痛々しいその手を眺めて、微笑むのでした。
これが私の生きた証と。
これが私が生きていくのに必要な罰と。
青年は涙をこぼしました。
だってこんな手じゃ。
ちょっと触っただけでもどんなにか痛いだろうに。
少女は答えました。
痛いからいいの。
痛くなければ生きていけないの。
でもこの手は悪魔が憑いているから。
みんなとは一緒にいられないの。
少女は身震いをひとつと、大きなため息をひとつ。
青年は知りました。
だって少女は、何の変哲もない少女だったのです。
何もおかしくなんかなかったのです。
悪魔なんて、みんな宿しているものなのです。
少女がここに凍りつく理由など存在しなかったのです。
だから、青年は夜が明けるまで少女の隣におりました。
ずっとずっと、肩を抱いておりました。

そして、始まりの光が町並みを照らした時。
二人は塔を出ました。
手袋をはずした手を繋いで。
そして人々は知りました。
やはり少女には悪魔が憑いていたのだと。
きっとそれが青年を塔の中へ招き入れたのだと。
そして二人を塔から出させたのだと。
悲しいことだ、気の毒に。
小さく肩をすくめて、それでおしまい。
黒い手袋と少女のお話も、これでおしまい。

人々は今日も、自分に巣食った悪魔に気づかないまま。

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【2012/09/02 20:14 】 | 未選択 | 有り難いご意見(0)
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