私は鳥籠の中。
鉄で作られた鳥籠。
冷たくて硬い鳥籠。
止まり木しかない鳥籠。
覆いの掛けられた鳥籠。
何も見えなくて。
どこにもいけなくて。
自分の声だけが聞こえる。
誰か、とないてみる。
いるならここから出して、と。
答える声など無い。
広げられぬ翼は背に重く。
広げようという意志さえ私には無い。
かつては草原を駆け巡る風に乗って飛び回ったというのに。
気付いた時はこうだった。
私は日に日に影になっていく。
きっとそのうちこの籠の闇に溶けてしまうのだろう。
私は忘れられた鳥。
飛ぶことを忘れた鳥。
誰かから愛されることを忘れた鳥。
闇以外の世界を失った鳥。
ある日覆いは取り払われた。
眩しい世界。
光の刺激が私の目を射る。
上には真っ青な空。
下には馴れ親しんだ草原。
私の世界はこんなにも近くにあった。
それなのに。
鳥籠は相変わらずの冷たさで私を阻んだ。
大空には鳥が舞う。
声を掛ける。
返事など無い。
だって私は忘れられた鳥。
名前すら持たぬただの鳥。
もう一度触れたい。
あの大空に舞い上がる幸福が欲しい。
でも誰も私に触れない。
忘れてしまっているから。
私は影。
光に当たれば消えてしまうのかもしれない。
世界は手の届く場所にあった。
でも私には届かない。
いっそ知らなければ。
私は苦しまなかったかもしれない。
覆いは外れるべきでなかったのかもしれない。
見えるのに触れられない。
それは見えないより辛いかもしれない。
それでも私は、このまばゆく美しい世界から目を逸らせないでいる。
胸の痛みは消えないけど。
それでも見ていられる。
感じていられる。
それは幸せなことなのだと知っていたから。
覆いが教えてくれたから。
それでも私はなく。
誰かここから出して、と。
誰か覆いを戻して、と。
私が溶けて消えるまでに。
私に与えられるのは光か、闇か。
冷たい鳥籠は黙したまま。
私は忘れられた鳥。
飛ぶことを忘れた鳥。
誰かから愛されることを忘れた鳥。
光と闇の間に縛り付けられた、嘆きの鳥。
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