貴方は風
掴もうとする私の手を
嘲笑うようにすり抜けて
だけど私が手を開いたら
貴方はいつでもそこにいた
私の手が貴方を隠していた
貴方は逃げたりしないのに
どこにも行かせまいと
そんなことを考えすぎて
ふと気付いた時にはもう
貴方が見えなくなった
本当は掴むんじゃなくて
そっと抱いていたかった
だけどそれすら出来なくて
今はただ、背に感じるだけ
貴方は空
いつでも私の上にいる
私を見守ってくれている
貴方を見ていると何故か
吸い込まれそうな気になる
毎日違う顔をするけれど
いつでも優しく笑ってる
太陽に照らされた貴方は
鳥肌が立つほどに素敵
時に触れられそうで
そっと手を伸ばしてみる
その底は深いのに表面さえ
私に触れられないと知った
今はただ、見つめてるだけ
貴方は鳥
別段艶やかではないけれど
目立つわけでもないけれど
だけど貴方は美しい
飛ぼうというその意志が
空へ舞い上がる力強さが
風を切って進む逞しさが
私には感じられるから
きっといつか貴方は
私の元から飛び去っていく
きっと傍にはいてくれない
だけど私はただ黙って
飛び去る姿を見送るだろう
今はただ、止木になるだけ
もしも出来ることならば
いつか私を連れていって
私の知らない何処か遠くへ
私の知らない遥か彼方へ
その強い腕で抱きしめて
大地から私を引き上げて
お願い、私を攫っていって
私を一人で置いてかないで
そう一人で呟いてみたって
どう考えても私は重過ぎて
貴方の元へは行けなくて
飛べるまで軽くするなんて
私には不可能だと知ってた
だから私はここにいよう
貴方が道に迷わぬように
せめてここから手を振ろう
いつでもすぐ帰れるように
私はいつでもここにいるよ
貴方が重ねた、記憶の中に
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